Interview


2016年2月にミニアルバム「December Waltz」でデビューした謎のシンガー「niina」

niinaのやや低く甘い声と、シャンソンをはじめとする古き良き時代のポップスを思わせるメロディとサウンドが

見事にマッチした傑作ポップスアルバムを発表するも、6曲の音源とごく僅かなライブやメディア露出以外に情報がない状態で、彼女の存在は謎に包まれたままだ。今回は特別に、niina本人とソングライティング、プロデュースを手掛けた上田禎氏に話を伺う機会が得られたので、niinaとしての活動や曲作り、今後の方向性等、

じっくりと語ってもらった。




―niinaさんのプロフィールやこれまでの活動を教えて下さい。


niina(以下"n") 10年以上前からシンガーソングライター、歌手として活動していました。

niinaとしては今年2月にはじめてCDを出しましたが、実は芸歴は長いんですよ。


―ライブや音楽雑誌のインタビューでは「辻香織の妹分」という言い方をされてましたが…


n 私に実の「姉」はいませんが、辻香織あってのniinaではありますね。


―おっと、最初から意味深な発言が!


上田禎(以下"u") 出自ってどうでもいいんじゃないの?プロフィールや情報が無さ過ぎるって言われるけど、

そういうものは本当に必要なのかな?デビューしたての「新人」なんだし、

特に何もないってことで別に良いと思うけど。


―シンガーソングライターとして活動していた方が「歌手niina」として再デビュー、

音楽の完成度と存在感があればそれだけで十分ですよね。


―niinaさんと上田さんの出会いのきっかけは何だったんでしょうか?


u  共通のミュージシャン仲間を通じて、かなり前からの知り合いでした。昔から彼女の声の良さに注目していたので、プロデュースを手掛けることになり非常に光栄でしたね。


―以前上田さんがプロデュースを手掛けた、辻香織さんの「インスタント・パリジェンヌ」はniinaの世界に直接

繋がる感触ですが、違いは何でしょう?


u 辻さんの「インスタント・パリジェンヌ」はあくまで「インスタント」なフレンチ路線、

niinaではもっと深いものを試みてみたかったんです。


―niinaとしての活動を初めるにあたって、影響を受けた音楽はありますか?


n 大きな影響を受けたのは、フランソワーズ・アルディ、ジェーン・バーキン、ジュリエット・グレコ、

セルジュ・ゲンズブール、その他色々なシャンソンですね。上田さんからレコードを借りて聴いてみたりもしました。もともとフォークソングをたくさん聴いていて影響を受けたのですが、シャンソンを聴くようになったのは

ここ4年くらいですね。


―上田さんから見て、niinaさんの最大の魅力はなんですか?


u 一緒にやることになって、だんだんキャラクターがわかってくると可愛く思えてきた、

基本アホやから、この娘(笑) 

 彼女の歌について普段は「ヘッタクソやな~」って叱ってたりするくらいなのに、ある日リハをしていてね

「プルッ~」とくる瞬間があってね、涙が出そうになってしまったことがあった。僕のこれまでの音楽活動の中でね、声を聴いただけでそんな風に思ったのは、あがた森魚さん、佐藤伸治さん(フィッシュマンズ)、そしてniinaの三人だけなんです。

逆に言うと、彼女には声以外は何もないかなとも思うけど、歌手なんだからそれで十分だよね。


―今作では女性の人生の様々な場面が歌になっていますが、それぞれにリアリティや説得力のある歌唱になっています。それもniinaさんの歌の大きな力ですよね。


u 「わからないことをわかった振りをしない」という、彼女のパーソナリティが声に反映されてると思うの。

もっともチャーミングなポイントが声にダイレクトに出てる、平たくいうと「アホはアホ」…。


―すべての曲のソングライティングを上田さんが手掛けていますね。メロディもさることながら

歌詞が非常にユニークです。


u 僕は歌詞の出来の良し悪しはわからない、詞については素人だからね。

話をしてると「友達にこんなことを言われた」「こんなことを言ってやった」とか言ってくるの、

取材というわけじゃないけど、普段の会話を結構ネタにしてるところはある。


―真実な部分や膨らませたこと等、彼女の素顔の一面が曲に反映されているんですね。


n 普段私はノートと万年筆を持ち歩いていてに、雑文的に思ったこととかを書き留めてるんです。

それを上田さんに見せたことがあって、一部の曲にはそれが反映されていましたね。


―niinaさんの考えが反映された曲もあれば、そうでない曲もあると思いますが、

持ってこられて驚いてしまった曲はありますか?


n 「Hello mister」とかビックリしましたね、「これ、歌えるのかな…」って思ったくらい(笑)。

歌ってみると声と歌詞と曲がリンクして、色々な人が色々な捉え方をできるんじゃないかと思って、

気に入っています。


u あの曲は「この娘のこの口からこんなこと言わしたろか」と僕が楽しんでる部分もある。


―「たまりませんわ」挙げ句には「太く固く」「そびえ立つ」とまで(笑)…。

女性には絶対に書けない歌詞かと思います。


u こんな詞は自分で歌う人が書くわけないでしょ(笑)「こんなの歌えない!」と言われるに決まってると思って

書いてきたのだけれど、彼女は「ヒャヒャヒャ」って笑ってるの。


―「シャンソンが止まらない」の冒頭の「ちょっと昔に若かったの」なんてのも素敵な表現です。


u あれはもともと「遠い昔に」だったんです。でも彼女が反発したの。

「結構年いってるて思われたら…若いのに!」ってね(笑) 

(歌詞カードを見直しながら)ん?歌詞カードは「遠い」のままになってる、レアやこれ、

直ってないよ!


―「ちょっと」でも「遠い」でも「実際どうなんだ!?見た目は若そうだけど…いったいどれくらい昔のこと?」

と冒頭からイマジネーションをフル回転させられますね。


―「神もヘッタクレもここにはない」なんてフレーズも、niinaさんの甘く低い声で聴くと言葉の意味を越えて

迫ってくるものがあります。


u でも、レコーディングの時に彼女はYASSY(トロンボーン)に一生懸命に聞いてたの

「ヘッタクレってなんですか?」って(笑)


―「ヘッタクレ」以外にも「ハッとしてグッと」「バストアップのクリーム」等々、

女性が自分から歌うような言葉ではありません。


u 「バストアップのクリーム」は彼女との会話の中で出てきた言葉だね。


n 先日京都のラジオに出演した時、パーソナリティの方もスタッフさんも全員女性だったんですけど、

その部分ウケが良くて「何使ってるの?」「商品名は?」って次々に聞かれました(笑)


―上田さんが作った辻香織さんの名曲「愛のジプシーズ」を先日のライブでカバーされていましたが、

哀愁のメロディに「私会長であなた副会長」などユニークな表現が光っていました。


n 「あなたに恋をした日から、私は真っ裸」というのはビックリしましたが、歌ってみると違う、

というのを学びました。


u 僕は作詞については素人だから、直接的に書いちゃうんだよ(笑)。

こんな時、普通の作詞家は美しいメタファーを用いるんだろうけどね…。


―ライブではスカートの端を両手でつまみ上げるアクションが非常に可愛らしかったです。

ステージでのパフォーマンスは意識はしていますか?


n  踊ることが好きなんですよ。おばがバレエ教室をやっていたので小さい頃から通っていたんですけど、

「動きがヘンだ」と言われていて、大勢で踊ると一人だけ浮いてしまうのでコンクールに出してもらえなかった、

というトラウマになっている経験があるんですけれど、大人になってもやっぱり踊るのが好きなんだ、

という感じですね。

niinaをはじめて楽器を弾かなくても良くなって「あ、踊れる!」って思いました。

アクションでも表現が出来ると見ている方にエンターテイメントとして楽しんでもらえるかなと思っています。


―niinaさんが考える「December Waltz」の聴き所はどこでしょうか?


n 結果的にだとは思いますが、今の時代の女性像が今回のアルバムで表現できたと思います。

強くもあり弱くもあり、大人でもあり子供でもある、

という大きな波みたいなものが出せたのが一番の魅力だと思います。


―「ある恋」では一曲の中で強がったり弱気になったり、「冬の前に」では切々と語りかける感じなど、

アルバムの中で様々な表情を見ることが出来ます。


n 初めてniinaのアルバムを聴いてくれた人から「曲ごとに歌い方も声も全然違う」と

言われたことがありますね。一曲一曲に映画や演劇の様にストーリーがはっきりあって、

歌で別の世界に連れて行くのを夢に描きながら私は歌っています。


―上田さんからの視点では「December Waltz」の聴き所はどこでしょう?


u 地味な曲だけど一番好きなのは「冬の前に」ですね。

彼女の個人的なことを代筆させてもらったな、って思ってます。


n リハで上田さんが仮の歌を歌っていたのを聴いて、歌詞にもなっていないメモの様なものを書いて送ったら

「冬の前に」を作ってくれました。

その時に送った言葉が直接は使われてはいないのですが、私の気持ちを書いてもらったな、と思ってますよ。


―「December Waltz」の録音はいわゆる「一発録り」ですよね。テクノロジーの進歩した現代で、

あえてその手法を選んだ理由は何でしょう?


u 少し前にシャンソン歌手のクミコさんからアレンジの依頼をを受けたんです。

信頼出来るミュージシャンを集めてレコーディングに臨んだのだけれど、

スタジオに行ってみたら、歌も同録だった。

僕は演奏の録音のつもりでいたのだけれど、クミコさんも一緒に歌いだすの。

ただ良いライブを収録すればいいんだって、えらく感銘を受けました。

クリックを使わないので、テイクごとにテンポが微妙に違っていて、使い回しや編集が出来ないという、

プロデューサーとしては自ら首を絞めることになってるんだけれどね…。


―専門的な音楽の知識の無いリスナーからみても「December Waltz」のサウンドには、

全体に他には無い独特の空気感があることがよくわかります。


u 「熱量」が違うでしょ。ミュージシャンは皆プロなのだけど、一発録りだと

「ヤバイ、ちゃんとやらないと…」って余計に必死になるから、良いものになるんです。

 今回は各パート一斉に録ったけど、違うブースに別れて入って録音しています。

本当は大きなスタジオを借りて、音が被るのも構わず皆で並んで一斉に録音出来たら良いと思いますね。

この作品を作るにあたって参考の為に聴き直したレコードのほとんどは、ヴォーカルマイク一本だけで録音、

という非常にプリミティヴなやり方をしているの、そんな音楽作りが究極の目標ですね。


―今作がヒットしたらぜひ実現して欲しいです。


―今後のniinaの方向性はどんな風に考えていますか?


u 本人がもっとやりたいなら「もっと突っ込むぞ」という感じです。

例えばブリジット・フォンテーヌでバロック風というか宗教音楽の様な声楽曲がある。

それは「なんちゃって」なインスタントなものではあるけれど、

フォンテーヌは入り込んでなり切って歌っている、10代の頃それを聴いて物凄い衝撃を受けたの。

歌詞は実はしょうもなかったりしてても、全体で凄まじい世界を作り上げている、そんな音楽が出来たらいいな。

そこまでやるか?と彼女とは話し合って進めてみたいね、イバラの道になりそうだね。


n 憧れているシャンソン歌手の方のようなところに私が行けるのかな?という不安はあります。

上田さんの作る曲があって、その世界をどう歌ってどう表現していこうか、

今度はどんなniinaになってやろうか、というのをとても楽しみにしています。

まだまだやれることはあるぞ、と思っていますよ。


―今の日本のシーンで、他に類を見ない独特な存在の音楽が出来そうで非常に期待しています。


interview&text by YOS

http://yoslivereport.seesaa.net